コラム|営業
受注分析で狙う顧客を決め直す:売上の約7割は上位約8%から
BtoBマーケティング支援企業の受注分析をもとに、初回取引と継続的な売上の関係から、営業が力をかける顧客を考える。
執筆:三浦慶介(株式会社グロースドライバー 代表取締役)
受注分析で決めるのは、誰に時間を使うか
受注分析とは、過去の取引を顧客や取引内容ごとに分け、売上がどこから生まれているかを調べることです。目的は、売上ランキングを作ることではありません。次にどの顧客へ営業の時間を使うかを決めることにあります。
担当エリアや新規・既存で営業を分けると、担当範囲は明確になります。ただ、その区分だけでは、同じ担当範囲の中で誰を優先するかは決まりません。取引の大きさも、続き方も違う顧客に、同じだけ時間をかけることになりやすいのです。
私は、分析の結果を見るとき、どの顧客に力を集める判断につながるかを重視しています。その入口になるのが、売上の偏りと、初回取引の後に続く売上です。
実践:受注データに表れた二つの差
グロースドライバーが支援するBtoBマーケティング支援企業で、受注データを分析した事例です。
全体の売上だけでは見えない偏り
分析で分かったのは、売上の約7割を、上位約8%の顧客が占めていたことでした。顧客数の多い層が、そのまま売上の中心とは限りません。取引先を一社ずつ同じ重さで数える見方と、売上への貢献で見る見方では、優先順位が変わります。
ここで得られたのは、集計上の発見です。顧客を絞った結果、売上が増えたという数字ではありません。だからこそ、この偏りをどう次の営業判断に使うかが本題になります。
上位顧客の名前を並べるだけなら、既存顧客の管理で終わります。その顧客はなぜ大きな取引に至ったのか。似た条件を持つ顧客はほかにいないか。新規営業にも使える条件に置き換えて、初めて分析が次の行動につながります。
初回の取引にも、その後の差が表れていた
同じ分析では、初回取引の規模によって、その後のLTVに約5倍の差がありました。ここでいうLTVは、一度の受注額ではなく、その後の取引も含めた顧客あたりの売上を見る考え方です。
この差は、初回受注を単独で評価しない理由になります。小さくても受注できればよい、と考える場合と、その後の取引まで見込んで最初の提案を考える場合では、顧客の選び方も提案の範囲も変わります。
ただし、初回の金額を引き上げれば、将来の売上も同じ倍率で増えるとは言えません。最初から利用する範囲が広い顧客だったのかもしれないし、長く使う必要がある顧客だったのかもしれない。分析で確認できた差と、その理由の仮説は分けて考える必要があります。
発見から、ターゲットの条件へ
この事例が示しているのは、取引先を増やす前に、どんな取引先を増やしたいかを具体化する必要があるということです。
上位顧客に共通する業種、企業規模、利用部門、初回の取引内容を確かめます。さらに、営業担当が知っている導入の背景を重ねます。単に大きい会社だったのか、自社のサービスで解決できる課題が大きかったのかでは、次に探す顧客が違います。
過去に大きく買ったという結果を、商談の前や途中で確認できる条件へ変える。これが、受注構造の分析からターゲットを決め直すときの要点です。
数字が大きい顧客だけを追う落とし穴
大口顧客の一覧は、そのまま営業の優先順位にはなりません。すでに十分な取引があり、追加の余地が小さい顧客もいます。今の売上は小さくても、未利用の部門や用途が残っている顧客もいます。
また、似た規模の会社でも、商談の進めやすさは同じではありません。取引額の大きさだけで順位を付けると、時間をかけても進まない案件に営業が集中してしまいます。
見たいのは、売上の大小そのものより、これから時間を使う意味がどこにあるかです。
今の売上・伸びしろ・成約しやすさを分ける
受注分析を営業の配分に変えるとき、私は次の三つを別々に見ています。
- 今の売上:現在の事業を支えている顧客はどこか
- 伸びしろ:追加の利用や新しい用途に広げる余地があるか
- 成約しやすさ:自社の強みが相手の課題に合い、取引を進められるか
今の売上が大きい顧客には、関係を維持するための時間が要ります。伸びしろが大きく、成約しやすい顧客には、提案を進める時間を置きます。将来性はあっても導入の条件が整っていない顧客には、すぐの商談を迫る以外の接点を考えます。
こう分けると、全顧客に同じ頻度で訪問する必要はなくなります。訪問、提案準備、利用後の支援に、それぞれどれだけの時間をかけるかを決められます。
重要なのは、優先度を下げた顧客を雑に扱うことではありません。約束した支援は続けながら、追加で使える営業の時間をどこに振り向けるかを決めることです。
初回提案は金額より、利用する範囲を考える
初回取引とその後の売上に差があるなら、初回の提案内容も見直す対象になります。ただ、単価を上げることだけを営業に求めても、顧客が必要としないものを勧めるだけになりかねません。
先に確かめるのは、顧客がどの業務で、どの部門まで使う必要があるかです。小さな利用で十分なのか、初めから広い範囲を扱わないと課題を解決できないのか。顧客の課題に合う範囲を提案した結果として、取引の規模が決まります。
大きな取引になった顧客と、そうでなかった顧客の提案内容を比べる。必要な範囲まで提案できていたか、営業側が先に範囲を狭めていなかったかを振り返る。この問いなら、初回の受注額をただ積み上げる議論から一歩進めます。
分析の差を、そのまま営業目標に変換しない。差が生まれる背景を確かめ、現場で変えられる提案の内容に落とすことが必要です。
受注分析から配分を変える進め方
- 売上の偏りを確かめる:顧客ごとに取引をまとめ、売上の大きい順に並べる。少数の顧客に、どれほど売上が集まっているかを見る。
- 取引の始まり方を比べる:初回の規模や内容ごとに、その後の売上と継続の様子を見る。取引開始からの期間もそろえて比べる。
- 狙う条件を言葉にする:上位顧客の共通点を、営業が商談の前や途中に確認できる条件で書く。担当者の知見で背景を補う。
- 時間の配分を決める:今の売上、伸びしろ、成約しやすさから、誰への提案を増やし、どこへの追加の活動を減らすかを決める。
- 一部で試して見直す:条件に合う顧客への提案を試し、受注と継続を確認する。過去の傾向が、次の顧客にも当てはまるかを確かめる。
よくある間違い
- 売上順の一覧で終える:名前が分かっても、次に探す顧客の条件が分からなければ新規営業には使えない。
- 初回の金額だけを上げる:観測された差を、金額を変えれば再現する因果関係として扱ってしまう。
- 現在の大口だけを優先する:伸びしろや成約しやすさを見ず、過去の売上だけで時間を配る。
- 分析を足して、配分を変えない:優先顧客を決めても、訪問や提案の予定が同じなら、営業の動きは変わらない。
受注分析の成果は、きれいなグラフの数ではありません。次の提案を誰に向けるかが変わることです。
まずは、営業が時間を使っている顧客と、売上を支えている顧客を並べてみてください。その違いから、配分を見直す議論を始められます。
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