コラム|BtoBマーケティング
展示会で商談を増やす:声掛けより先に決めること
AIスタートアップの出展設計をもとに、名刺の枚数を追う運営から、来場者の検討を進める訴求と人員配置への変え方を考える。
執筆:三浦慶介(株式会社グロースドライバー 代表取締役)
展示会で何を成果とするか
名刺は集まった。では、誰の検討が進んだのか。
展示会の振り返りで、最初に確かめたい問いです。名刺の枚数は接点の数を示しますが、相手が抱える課題や、次に話す理由までは分かりません。集めた数だけで出展の成否を決めると、現場も枚数を増やす動きに寄ってしまいます。
ここでいう有効商談は、自社が価値を提供できる相手との、検討を前に進めるための対話です。単に日程が決まっただけのアポイントとは分けて考えます。何を確認できれば有効とするかは、出展前に営業とマーケティングでそろえる必要があります。
展示会は、顧客と直接話せる接点。限られた人員を、通行人を止める仕事と、関心を持った人の疑問を解く仕事にどう配分するか。出展の設計では、この判断が大切になります。
実践:声掛けから対話へ
誰と話すかを先に決める
私が取締役を務め、グロースドライバーとしても支援するAIスタートアップで、展示会の出展を設計しました。主題は、ブースの訴求と運営の見直し。
採った方針は、通り掛かる人に片っ端から声を掛ける運営をやめることでした。来場者の関心を置き去りにして、名刺を集めるために人を動かす運営から変えたのです。
誰に会いたいのかが曖昧なままでは、現場は目の前の人を止めるしかありません。反対に、話したい相手と伝える価値がそろえば、その人の検討に必要な説明へ時間を使えます。
これは、出展する側の都合だけで来場者を選別する話でもありません。相手にとって相談する意味があるか。その接点をつくるために、まずこちらの方針を明確にします。
機能より、顧客の変化を伝える
訴求は、営業の仕事にどんな変化を起こせるかに絞りました。トップ営業の動き方を他の人も再現し、生産性を高めるという価値。来場者が自分の組織に置き換えて考えられる説明を目指しました。
営業プロセスをAI化する、という説明だけでは、使う技術の紹介で止まります。営業が効率化する、と言い換えても、相手が本当に解決したい問題まで届くとは限りません。
誰の、どの仕事が、どう変わるか。そこまで具体的にして初めて、来場者は自社に必要かを考えられます。AIを扱う商材であっても、訴求の中心は技術の新しさではなく、顧客にとっての価値です。
ここで示した生産性の向上は、出展時に伝えた提供価値。ここで紹介する結果は、会期中に得た接点とアポイントです。何を約束する説明かと、実際に確認した結果は分けて扱います。
その場で答えられる人を置く
ブースには、営業と開発責任者を配置しました。顧客の課題を聞ける人と、実現方法を具体的に説明できる人が、その場で対応するためです。
関心を持った来場者には、自分の業務でどう使えるか、どこまで実現できるかという疑問があります。それに答えられる体制を、声掛けの人数より優先しました。
役職の高い人を立たせること自体は目的ではない。必要なのは、提供する価値の理解と、質問に答える力。担当者が答えられない論点を、誰につなぐかも考えておきます。
アポイントを取るために詳しい説明を後回しにすると、相手は判断材料が足りないまま次の時間を求められます。会場で答えられることには答え、そのうえで次に確認する課題を残すほうが、対話の目的を共有できます。
結果と、読み違えてはいけない点
この出展で得た名刺は約270枚でした。同じ会期の1コマ平均と比べて約1.5倍です。会期中に獲得したアポイントは17件でした。
片っ端の声掛けに人を使わなくても、接点をつくることはできました。この数は、出展チームとしての結果。私一人が名刺やアポイントを獲得したという意味ではありません。
アポイントの数は、受注件数ではない。訴求、人員配置、来場者との対話を合わせて設計した結果であり、声掛けを減らすだけで同じ結果になるとも言えません。
この実践から持ち帰ってほしいのは、声掛けをするかしないかの二択ではなく、限られた人をどこに置くかという判断です。自社のブースで、関心のある人の質問に答える時間は確保できているでしょうか。
会期後まで含めて評価する
会期が終わったら、名刺とアポイントを数えて完了、とはしません。出展前に定めた相手との商談ができたか、その後の検討がどう進んだかを追います。
会期中の接点、商談、受注。それぞれ、評価する段階が異なる。短期には有効商談を確認し、その後に受注と売上を確認することで、出展費用に見合う成果かを判断しやすくなります。
まだ検討時期が来ていない相手に、すぐ商談を設定することだけを求めるのも適切ではありません。関心のあるテーマや検討時期を踏まえ、役立つ情報を届けるなど、次の接点を考えます。
一方、将来の可能性があることを理由に、成果を曖昧にし続けるのも避けたいところです。確認できた受注と、これからの見込みを分けて報告します。未受注の相手を、すでに得た売上のように扱わないためです。
出展前に決める進め方
1. 話したい相手と有効商談の条件をそろえる
どんな課題を抱えた相手に、自社が価値を出せるかを確認します。来場者の肩書きだけで判断せず、会話で何を聞くかまで決めておくと、営業とマーケティングの認識を合わせやすくなります。
2. 相手に起きる変化で訴求を組み立てる
機能の説明から始めず、使うことで仕事や成果がどう変わるかを言葉にします。その説明を裏付ける機能や事実も用意します。期待を大きく見せるだけでは、具体的な質問に答えられません。
3. 質問に答える体制を組む
想定される質問に対して、誰がどこまで答えられるかを確かめます。ブースに置ける人数が少なければ、声掛けを増やす前に、関心のある人への説明を維持できるかを見直します。
4. 会話を次の接点につなぐ
名刺だけでなく、相手の課題、関心、次に確認することを残します。会期後の連絡は、その会話の続きとして設計します。全員に同じ内容を送るだけでは、会場で話した意味が薄れてしまいます。
よくある間違い
名刺が多いから成功、少ないから失敗。これだけでは、出展を続けるか、運営を変えるかの判断材料になりません。どの相手と何を話し、その後に何が進んだかまで確認します。
声掛けを減らしたのに商談が増えない、という捉え方にも注意が必要です。訴求が伝わらず、質問にも答えられないまま声掛けだけを減らしても、来場者の検討は進みません。減らして空いた時間を、どんな対話に使うかが重要です。
また、アポを取る担当と説明する担当を切り離しすぎると、相手が今知りたいことに答えにくくなります。役割を分ける場合も、その場で必要な説明につなげられる体制を用意します。
次の出展で決めるべきなのは、何人で声を掛けるかだけではありません。誰に価値を伝え、何をその場で確かめてもらうか。そこから訴求と人員配置を決めると、展示会の運営を事業の判断につなげられます。
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